月別アーカイブ: 2014年10月

風能奈々「地下の湿度と紙の手ざわり」

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とにかく執拗に作品に描き込む作家がいる。点描画で有名な印象派のスーラーなんかもそうだが、それは忍耐と気力を伴う作業である。しかし、その表現手段こそがその作家にとって最も有効な表現なのだろうが、それにしても情熱というか、執念は見ていて凄いものがある。別に簡素に描かれた作品に情熱や執念がないと言っている訳ではないが、余りにも緻密に描かれる作品を作る作家には物理的に大変なんだろうなと思わず敬意を表したくなる。風能奈々もまさにそんな作家で彼女の作品は信じがたい程に緻密だ。制作している時は水中に潜って地下に下りて行くような感覚があるとは作家自身の言葉だがなるほど、息を止めて真っ暗な地下へと潜るような作業を経て彼女の作品は姿を現すのだろう。人物、動植物、文字などの象徴的なモチーフが散りばめられた彼女の作品世界は深い闇の中で彼女が描き出す不思議な世界である。絵の具を繰り返し塗り重ねた画面には独特の風合いとテクスチャーが生まれ、そこに描かれたモチーフは封印される。今回は今まで馴染みのある絵画作品に加えて新たに木炭を使ったドローイングも発表されていてとても興味深かった。絵画作品では下描きや描き直しをしないそうだが木炭を使って描く時は描いては消す作業を繰り返し完成までに作品の姿は変化し続けるのだそうだ。木炭は日本の美術教育の基本である石膏デッサンの技法でもあるがこうした形でドローイング作品に木炭を使うというのは面白い試みである。作品はどれも夢の中の出来事やシーンの様でもあり彼女の心の中に存在する世界の模写のような気配が漂う。独特な表現手法と表現世界を持つ作家として今後の活躍にも更に期待したい。

坂本夏子 「坂本夏子の世界展」

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アラタニウラノギャラリーにて「坂本夏子の世界展」を見た。ペインティングやドローイングの展示は全て色使いが美しく、筆の塗り重ねのひとつひとつが膨大なイメージへと変化し作品として生まれる様も素晴らしい。草むらや花、森、お花畑のようなイメージもあれば幾何学的なコンポジションに女性が描かれた作品もあった。勝手な想像だがその女性は作家自身で彼女を取り巻く幾何学的な模様は彼女の内面を表しているような気がした。そう考えながらその他の彼女の作品を眺めているとそれは単なる花や草むらなどの具象的な模写ではなく、全てが彼女の内面を表現した抽象画なのかもしれないと思えた。展覧会のタイトル通り、それは「坂本夏子の世界」なのであって現実の世界ではなくむしろ彼女の心の中か彼女が見る夢の世界を描いているのではないか。幾重にも重ねられた色が美しく融合し、なんとも言いがたい美しいハーモニーを奏でる感覚は印象派の巨匠であるモネを思わせる。しかし、ハーモニーの感覚はモネの様であってもそこから感じるのは決してモネではなくて、非常に現代的である。現代の女性が独特の感受性で描いたペインティングという雰囲気がするのだった。ギャラリーで手渡されたパンフレットには彼女の作品の制作の行程を段階的に写して収めた記録写真が載っていた。全体を黄色に塗ったキャンバスにまるで自然の草が生えるように草花を描き足して作品を完成させて行く行程は非常に興味深かった。具象と抽象の狭間を行き来しながらイメージが最終的に出来上がって行く様は完成品だけを見るよりも彼女の作品への挑み方ような物を垣間みさせてくれた。作家本人もいらしたので作品の前で彼女の写真を撮らせて頂いたが、カラフルな作品とは異なり黒一色のドレスの小柄な女性で彼女のどこからこれほどパワフルなイメージが沸き上がるのかと思ってしまうほどのコントラストだった。そんな彼女から、自分の内面を絵で描く、絵で表現するという単純であるようでいて実は非常に難しい行為を淡々と行える落ち着きのような貫禄を感じた。