月別アーカイブ: 2018年6月

見えない距離

山本現代ギャラリーにて6月9日から714日まで今津景の個展「Measuring Invisible Distance」が開催されている。展覧会タイトル「Measuring Invisible Distance」は「見えない距離を測る」であるが今回の作品の制作テーマがそこにあるのだろう。この作家の絵画では表現力の圧倒的な迫力とねじ曲がって混在しあったイメージの不可解さが見事に作品化されている。作家はパソコンのフォトショップで加工して作ったイメージを絵画に置き換えて描いているというがなるほどそう聞くとこの独特の世界に納得ができた。しかしながらパソコン上で指ツールの操作によって作られた虚構のイメージをキャンバス上に筆と絵の具を持って物質として表現するという行為は興味深く作家自身もその作業工程で生じるズレを手探りながらどう定着させるか試行錯誤しながら絵画作品として仕上げているようだ。作家はデジタルの時代にリアルであるキャンバスと絵の具を使った絵画作品をいかにして制作していくのかという距離感を図っているのかもしれない。

 

色彩の力

6月9日より7月7日まで天王洲アイルにある児玉画廊にて鈴木大介の展覧会「Perceiving 」が開催されている。「Perceiving 」とは「知覚する」という意味だがなるほど作家によって知覚された色彩の力を感じる展覧会だ。抽象画というのは個人的にとても好きな絵画なのだが抽象的に描かれた絵はごまかしも効かないし瞬時にセンスがあるかないかがわかるものだと思っている。どんなに頑張ろうがそういう問題ではなく才能が本物か否かは抽象画の場合は絵から滲み出てくるというか見れば分かってしまうものだと思う。そういう意味でもこの作家は才能に恵まれているしそういう人が抽象画という世界に真摯に向き合った果てに結果として表現された鮮烈な色彩や大胆な画面構成、流れる線などは気持ち良いほど力強く見るものに迫ってくる。まだ若い作家だと聞いたが今後がとても楽しみだと感じた。

蜜と意味

天王洲アイルにあるKOSAKU KANECHIKAギャラリーにて沖潤子の展覧会「蜜と意味」が721日まで開催されている。以前に開催されたグループ展でも見た作家だが今回は個展で広いギャラリースペースをうまく使って新作12点を展示していた。作家は古い布やボロが経てきた時間やそれらが語る物語の積み重なりに刺繍と自身の時間の堆積を刻み込み紡ぎ上げることで新たな生と偶然性を孕んだ作品を完成させる。まるで時間を紡ぐように古い生地の上に作家が施す信じがたいほどに細かく複雑に編み込まれた刺繍、それを石鹸で洗うと蓄積していた汚れが落ちたり色が抜けたりして針目は独自の色に染まってゆく。古い布の持つ歴史に作家の施す刺繍などの手が加わり新たな生命を宿した作品へと昇華する様にはどこか「生み出す」という女性ならではの性を感じずにはいられない。繊細かつ強靭な表現からは生きるということの真理が見え隠れしているようでもある。

「理科の窓」

大塚駅にほど近いKAYOKOYUKIギヤラリーにて5月11日〜6月17日まで「Science Window」というグループ展が開催されている。このグループ展、面白いと思ったのは参加している3人の作家がそれぞれアルゼンチン、ニューヨーク、愛知県という異なった場所を拠点に活動していることだった。当然として場所も違えば3人の使う言語や育った文化も違うのだが「作品を通しての表現」という共通言語でギャラリースペースを満たしていた。展覧会のタイトルである「Science Window」も面白く、翻訳すると「理科の窓」となるこのタイトルは男性のズボンのファスナーが開いていることを指す「社会の窓」に対しての女性版として使われたものだという。また、「Science」という単語の起源として我々が知る「科学」ではなくラテン語の「知る」を引用し「なぜ?」と疑問を持ち続けて来た人類の歴史と今は科学の発展により多くの答えが見つかったようでいても我々はあい変わらず「なぜ?」という根源的な疑問を感じ続けていることが展覧会のタイトルの背景にあるのだという。男性で言う「社会の窓」の女性版「理科の窓」の状態とは社会に向けて閉めているはずの「窓」が偶然にも開いたままになっているのかまたは意図的に開けているのかという疑問はさておき、作家たちはあえて「窓」を開けた状態で私的な思考や感情などを社会にさらけ出すことによってそれぞれの表現を模索しているのではないだろうか。

広げられた自空

六本木の小山登美夫ギャラリーにて5月25日から6月30日まで「もの派」の作家、菅木志雄の個展「広げられた自空」が開催されている。1960年代から70年代におきた芸術運動の「もの派」というムーブメントの主要メンバーであり70歳を超えた現在も精力的に制作活動をする菅木志雄だが1972年の最初の国際展への出展では主客二元論が主流の欧州において「これはアートではない」とまで言われた。しかし近年「もの派」への再評価によってアーティストとしての確固たる地位を築いた菅木志雄の活躍は目覚ましく世界中で展覧会を熱望される作家となったのだ。インド哲学や東洋的な思想に共鳴した独自の哲学によって石や木、金属といった「もの」同士や空間や人との関係性に対して様々なアプローチを仕掛けながら「もの」の持つ存在の意義を顕在化するような制作活動を続ける菅木志雄にとって新たな表現への情熱は尽きることがないのだと思われるが今回の展示も新作を含み素晴らしいので是非ギャラリーに足を運んでいただきたい。