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本木雅弘「ロンドンでの家族との暮らしコクトーの話。」
my art collection 第1回 / 全3回 / 2013.10.10

本木雅弘「ロンドンでの家族との暮らしコクトーの話。」

ONE SIZE GALLERYディレクターである田辺良太が友人の「アートコレクション拝見!」に伺い、アートに関して気楽に語り合うという連載コーナー「my art collection」。第2回目に訪ねた友人は本木雅弘さん。10年振りに子供が出来て今は家族とロンドン暮らしの本木さんが来日中にお邪魔しました。今回は長い対談になったので全3回に分けてお送りいたします!

子供と行ったダミアン・ハーストの展覧会

田辺今日はお忙しいところをどうも!

本木いえいえ、よろしくお願いします!

あの、まずお断りと言いますか。

私は不器用な人間で、今10年ぶりに出来た3人目の子供がいる生活してます。

なので、かつてのアートが近くにあった生活とは全然違う次元で暮らしているので。

田辺あ、なるほど。

本木今は良太さんがニューヨークにいた時に色々と案内してもらった頃の記憶だけが、いや記憶の断片が、残像が、(笑)それだけがアート的な財産になっているだけです。

だからそれを思い出しながら話す程度しか出来ません。

田辺じゃあ、ニューヨークの事とか好きな作家とか、そういう話をしましょうか。

本木そう、拾い読み程度な感じで。。。

田辺了解しました。

ロンドンの事にも触れて良いの?

本木あ、うん、大丈夫。

敢えて公表はしていませんが。

田辺ちょっと待って、10年ぶりだっけ、子供?今何歳?

本木15歳13歳3歳。

男の子、女の子、男の子です。

田辺子供達、喜んだでしょ?

本木うんそう、出産にも立ち会ったし。

だから今も、真ん中の女の子がイギリスの学校にいるんだけれども、留学するにあたって、せっかく出来た3番目の兄弟の成長を共に近くで感じていくのは互いの情操教育にも良いんではないかと思い。

で、小さな子供を連れて行くには自分たちがそちらで生活してないといけないという訳でもれなく引率しているってことなんです。

田辺あーそういう事が出来るっていうのが良いね。

本木そうですね、でもまあまだ行って1年は経っていないけれど、ロンドンって基本、ミュージアムがただじゃない。

田辺そうだよね。

本木そう!で、その環境にありながらも向こうでも子育てに追われているのでほとんど行けてない。

一応、テートモダンでやっていたダミアン・ハーストの展覧会に行ったくらいですね。

田辺ダミアン・ハーストは、最近のイギリスのスーパースターで、彼の作品は街にもいろいろあったりもするってこの間話したけど、どうでした?ダミアン・ハースト展は?

子供と行ったの?

本木子供と行った!

田辺子供も楽しいよね、きっと。

博物館みたいな感じだし。

本木そうそう、巨大な人体模型とか、その、牛をまっ二つとか、そういう奇妙なものも違和感なく見ていた。

サメだったかな、同じシリーズの、ただ、サメであることに過剰反応している感じで。

田辺アート作品というよりも。

本木で、最後の方にあった本物の蝶を放してる部屋の時は、もうそこでトラウマになるほど蝶が体にまとわりついて来て泣きそうな顔してるから逃げるように出て来ちゃったんですけどね。

田辺あーそう!

本木あ、あのー、蝶を円心上に張り付けてるシリーズあるじゃないですか、あれ、本物の蝶を貼ってる訳でしょ。

で、それがコノートっていう案外シックなホテルにあるフレンチレストランにバンバンって大きなサイズで飾ってあるんだけど、なんというか本当に美しくて品がいいんだよね。

とても簡単な言い方だけど。

田辺だから、出来そうで出来ない?

本木うん、やっぱりすごく希有な力を持った人なんだと思う。

そんなに今までは自分の好みとは違うと思っていたけれど、全体をあれだけの量で見てみると総体的な印象として上品だなって気がしちゃったのね。思考とか、仕上がり感が..。

田辺すっごい俺も行きたくて、行けなかったんだけど、行った人の話とか聞いていて。

ダミアン・ハーストは衝撃的なアーティストだったから全体を見れたっていうのは羨ましいね。

それで、その感想は品がいいっていうのは凄く面白い感想だと思うし。

本木いつだったかな、数年前にパリに行った時にルイヴィトンの回顧展やっていた時もダミアン・ハーストのオーダー作品があって、青いトランクなのね、もの凄く深い、蝶の羽根の青色みたいな、それも凄かった。神秘的な吸引力で。

田辺ああいうアーティストってインスピレーションもあるけど深い考えも同時にあるっているか、そういうインテレクチャルなレベルとアーティスティックなレベルっていうのが最後に作品に出るっていうのが凄いよね。

ロンドンは、博物館もいっぱいあるし、まあ、ブリティッシュミュージアムもあるし、なんか、ちっちゃいミュージアムとかもあるけどそういうのも行ったりするんですか?

本木えーっと、個性的な小ギャラリーはこれからって事で…。(苦笑)普段は子供連れてナチュラルヒストリーとかね、あとは、その横にあるビクトリア アンド アルバート?

あそこも、ふらっと入ったりすると銀食器ばかりがワンフロアーにあるとか、勲章だけを並べてるとか、決まったものを膨大に並べてるの見ると、もう、それだけでも見れるし。

田辺歴史があるからね、ヨーロッパは。

本木うん、本当にそうですね。

田辺ヨーロッパにいると色んなところに気軽に行けるって話をこの前しましたけど、距離が近いから。

近隣国のどこか行きました?

本木フランスとスイスと、つい最近にギリシャですけど。

あ、でも、いわゆるアテネとかミコノス島とかじゃなくて地図上だと北の方?どちらかというとロシアとかドイツから来る人が多いっていう半島でアルキデキって言ったっけな。まあ、ファミリーリゾートなんですけどホテルの脇の丘にポンと遺跡の残りみたいのがやっぱりあって、、その前のステージでおそらくギリシャ民謡なのかそれを少しアヴァンギャルドにアレンジして昔のオノヨーコさんの絶叫とサラブライトマンの美声?それを融合させたみたいなおばさんがその遺跡の前で歌うみたいなね。

田辺モダンミュージックなの?

本木うーん、どういう風に捉えられていたのかよくは分からないけど、かなり芸術的な風景だった。

で、あと、余談ですがフェタチーズって癖のあるチーズだと思っていたけれど、現地ではとてもさっぱりいただけるという感じでした。

田辺食べてみたいねー。

美味しいの?食事は大体。

本木美味しい!凄くギリシャ料理は美味しかった。

もうなんか、ミントとライムとかフェネルとかディルとか香りのあるものが沢山使われていて。

どれも見た目よりもあっさりしてほぼイタリアンに近いシンプルさで感じが良かったです。

田辺まあ、それはちょっとアートとは関係ないけど。

コクトーの存在感に惹かれて

motokimasahiro-artpiece

本木ちょっとかけ離れましたネ。

そしてですね!(バッグから額に入ったジャン・コクトーのアートを取り出す)

田辺おー良いですねー。

本木もう、本当に薄れちゃったの。

田辺うんうん、でも、しょうがないんだよ、そりゃあ古いものだから。

ただ、日向とかに飾っとくとどんどん薄くなっちゃうから。

直射日光は避けた方が良い。

本木そういうその、デリケートな神経が足りなくて…。それで。。。スミマセン!自分で自分の記憶を辿るために(雑誌のクリッピングを出す)月刊角川だったんだけど、そうだな、90年代?初頭に、まあ、コクトーに傾倒してた時があって、英語もフランス語も読めないから一部訳してもらいながら見ていったんですよ。

田辺自分なりに色々調べたりしたんだ。

本木そうそうそう。

コクトーは、詩人だけど絵も描くし、映画も撮るし、小説家でもあり、戯曲家でもありって人じゃないですか。

田辺マルチだよね。

本木そうそう、だからその辺の好奇心旺盛さ、また「私は真実という名の嘘である」という本人のセリフ、世の中に対しての発言、評論が物議を醸し出したりするような存在感に凄く惹かれて。

田辺うんうん。

本木で、案外そのイラストっぽい感じだけど、素描っていうの、そういった簡単なものも好きで。

モチーフに出てくるギリシャ神話の神々なり、こういう竪琴なり、大きな目とか手とか、描くものも、自分には新鮮だった。

田辺じゃあ、ある年代の時の感性が震わされて、凄く共感したアーティスト?

本木そう、そして、その90年代、コクトーを巡る旅と称してしばらくフランスを回ったんですよ。

かつて本人が晩年を過ごして、本人の遺体が埋められているミリラフォーレというパリ郊外の小さな村があって、そこには本人が内壁に絵を描いた小さな教会があってね、そこで本人のお墓の上に寝そべってみるとか(笑い)

田辺お墓の上に!(笑い)

本木そう、コクトー乗り移れ!みたいな、そういう事しながら。

で、そんなこんなで、マントンにある美術館も行ったんだけど、そこを目指す途中で南仏にビルフランシュっていう小さな港町があって。

そこにもコクトーが内装外装にペインティングを施している教会があるんですよ。

それを制作していた当時、泊まっていたホテルっていうのも現存していて。

そのホテルの11号室だったか19だったか忘れたけど。窓から教会が見える…。

田辺その部屋に泊まったの?

本木いや空いてなくて泊まれなかったんだけど。その町では、コクトーが映画も撮っていて、「オルフェの遺言」っていう一番好きな作品なんだけど。

映画ではモノクロで観た同じ風景がそこにあって感激したりとか。

で、そこに小さなお土産屋というか、コクトーにまつわるものばかり売っているお店があって。

そこで、ひとつ、亡くなった年の素焼きのお皿を買ったんだけど、でも、これってさ、ピカソのとかもどうなんだか分かんないけど、本人が直に絵柄を書いている訳じゃないでしょ?そのデザインをして、別の人が何枚か制作している訳でしょ?

田辺あー、でも色んなパターンがあると思うけどね。

これ、変な話、高かった?

本木確かね、それは、30万くらいだったかな。

田辺あーそしたらたぶん本人じゃないんではないかな。

本木でしょ!?

田辺ただ、お墨付きというか、本人の許しを得た人がやっているみたいな。

本木あー、彼はゲイだから子供がいた訳じゃないし、養子にした人がいて、まあ「オルフェの遺言」にも出てくる人なんだけど。

その人が管理して、その後は誰かが、みたいな、ちょっと忘れたけど。。

田辺だからその、ちゃんとしたお土産というか、ちゃんとしたレプリカだよね。

でも、そのぐらいの値段するってことは、結構ちゃんとした、大量なものじゃなくて。

本木あー、でもどうだろうな、そのくらいだった気がするけど、でも何か証明書的なものは付いていたけど。

今日はそれをチェックして来なかった。

実はこの皿をかつて長年飾っていたころに鑞を垂らしちゃったの。

田辺上に?

本木そう、素焼きだからちょっと吸っちゃって。

田辺あー

本木取れなくなっちゃって。

田辺ちょっと、残念だね。

本木そして、その店で同じように沢山のただのスケッチ?なにかのノートやら何かに描いた切れ端が沢山売られてる訳。

田辺へえー

本木で、それが、まあ、ファイルみたいにされていて。

べらべらめくりながら好きなの選ぶみたいな。

でも確か、許可を受けて、ここでしか売ってないとか言っていた…。

田辺これはーこれも高かった?

本木えーと、これが確か日本円に換算して12~3万みたいな感じだったと思う。

田辺あーでも、これは本物だよ。

こういうの沢山描いてたと思うけど、いいよね、ちゃんとサインも入ってるし。

この額もそこで?

本木いや、それで、これをどんなものに入れようかってなって、東京の中いくつか回りながら、これをどこで買ったか定かではないんだけど。

田辺ぴったりの額だね。

本木そうそう、まあ、そのまま過ぎてって感じもあるんだけど。

田辺いやいや、凄く良いですよ。

本木まあこの「竪琴君」に良い部屋、見つかった!みたいな。

田辺この、こうした象徴的というかシンボリックなの良いね。

本木そう、で、真ん中だけ少し厚みがあって立体的になってる。

田辺珍しい額だね、よく探したね、こんな額。

きっとヨーロッパかなんかの額なのかな。

本木確かねー目黒川沿いの古い画材屋さんみたいなとこだったかな。

田辺あーあるある、ああいうとこね、わかる。

本木だったと思う。

田辺あ、そっか、じゃあこれ案外そういう昔の日本の絵のための額なのかもね。

でも、絵の大きさに対して額の大きさがちょうどいいし、良い額を見つけたよね、絵にとって額って大事だから。

なかなかね、巡り会いだもんね。

なんか、昔ヨーロッパ一緒に行った事あったよね、あれは確かスペインからずーっと南仏通って。

ダリのミュージアム見たり、あと、コリョールだったかな、フォービズム(野獣派)の発祥の地の港町行ったりとか。

本木あー、そうでしたね、あと、アルル!

田辺アルル、行ったね、ゴッホね、あと、アヴィニョンも行ったね。

本木そうでしたね。

田辺アヴィニョンはなんか成田山みたいなところだったね。(笑)

本木高速道路を、こういうの言っちゃあなんだけど、良太さん運転で140キロくらいで走ってた。

で、確か、スペインからフランスに入った時に、なんか、国境沿い辺りの簡単なレストランに入ったんだけど、もう、ガラッとパンが変わる?パンのクオリティーというかタイプが変わる?スペインの固めのパンから中フカフカのバゲットにみたいな。

田辺そうだったよね。

だから、なんかこのコクトーを巡る旅もそうだけど、ヨーロッパはアートの歴史のある国だから、そういった町を巡る旅って面白いよね。

そのままの町があったりとか、アルルだったらゴッホが描いたカフェがまだあったりとか、雰囲気がそのままだったりとか。

自分が紙とか写真とかでしか見ていなかったものが目の前にあるってなんか良いよね。

本木そうそう、よく、写真家の人の話とか、自分でも撮影でヨーロッパに行ったりするとそう感じるけど、光が違うって言いますよね。なんか、その場所その場所の光?もちろん日本には日本の空気を透かした光っていうのがあるように。

田辺そうかもしんないな。

本木そう、その、なんか、やっぱり観光って光を観に行くって書くじゃないですか。

田辺あーなるほどね、そうだよね。

本木まあ、抽象的ですけど、どこの場所に行っても、ある意味こう、光を観に行く?精神的に宿る光も含めて…。

で、たぶん、その光を見ていた人がそれをどう捉えて残したかというのが、まあ無理矢理言えばそれがアートの源みたいな感覚。

田辺そうだよね、やっぱ、印象派がね、出て来たのもヨーロッパ、あれも光を描くという、光の中に色んな色を見出すみたいな。

コクトーだって、これはたぶん、人間の孤独の中の光じゃないけど、人間性の中の闇と光を描くみたいのがあったと思う。

そういうものにやっぱ人は惹かれるのかもしれないね。

本木そう、コクトーは常に現実と非現実の間をなんかいたずらするみたいに矛盾と辻褄合わせを遊んでいる感じがした。

「僕自身、あるいは困難な存在」とか、評論のタイトルも独特。でも、なんとなく言葉の端々に、発見があるのが面白かった。

だって、コクトー曰く「芸術は肉をつけた科学だ」ですよ。

田辺なるほどね。

本木まあ、そんな旅もありで、その後、良太さんと出会って、ニューヨークで現代アートにも触れ始めるわけですよ。今はもうその記憶もかけらになっちゃってるけど。

本木雅弘(第2回)「ニューヨークの思い出やコンセプチャルアートの話。」

本木雅弘(第3回)「素朴なアートのパワー、日常がアートな話。」

本木雅弘
本木雅弘

1965年埼玉県生まれ。89年「226」で日本アカデミー賞新人俳優賞。 「シコふんじゃった。」(92)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞など多数受賞。 企画から携わった「おくりびと」(08)でも、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞他、多数受賞。 「おくりびと」は、第32回モントリオール世界映画祭グランプリ受賞を皮切りに、第81回米国アカデミー賞外国語映画賞部門を受賞するなど、国内外で数々の映画賞を受賞。CM界でも独自の存在感を放ち、名実ともに活躍する実力派俳優。 3年に渡り放送されたNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」で主演を務め、第38回放送文化基金賞 演技賞を受賞。